不眠症とは
不眠症とは、「眠りたいのに寝つけない」「夜中に何度も目が覚める」「朝早く目が覚めてしまう」「十分寝たはずなのに眠った感じがしない」といった睡眠の問題が続き、そのために日中のだるさ、意欲低下、集中力低下、気分の落ち込みなどが生じている状態をいいます。
誰でも一時的に眠れないことはありますが、それが慢性化し、日常生活に影響が出ている場合には、適切な対応や治療が必要です。
日本では不眠を訴える方は少なくなく成人で不眠を訴える方はおおむね1~2割程度と示されています。
また、慢性不眠障害は約10%とされており、決して珍しいものではありません。
近年は、夜型生活、長時間労働、交代勤務、スマートフォンなどの光刺激、ストレスの増加などが、睡眠の乱れに関わる要因として指摘されています。
不眠が続くと、日中の眠気や疲労感だけでなく、仕事や家事の能率低下、気分の不安定さ、抑うつ、事故のリスク上昇などにつながることがあります。
さらに、睡眠不足や睡眠障害は高血圧、糖尿病、心血管疾患などの生活習慣病とも関係することが報告されています。
睡眠は心と体の健康の土台です。
つらい不眠が続くときは、お気軽にご相談ください。
不眠症のタイプ・原因
不眠症状にはいくつかのタイプがあり、ひとつだけが出る方もいれば、いくつかが重なっている方もいらっしゃいます。
代表的なのは、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠困難です。
それぞれ様々な原因が重なって、不眠が引き起こされます。
入眠障害
入眠障害は、布団に入ってからなかなか眠れない状態です。
一般に「寝つきが悪い」と表現されることが多く、考えごとが止まらない、不安や緊張が強い、就寝前までスマートフォンを見ている、生活リズムが乱れているといったことが関係しやすいタイプです。
就寝前のカフェインやニコチンの摂取も原因となります。
比較的若い世代やストレスが強い時期にみられやすい不眠です。
中途覚醒
中途覚醒は、眠っても夜中に何度も目が覚めてしまう状態です。
眠りが浅く感じられ、「細切れにしか眠れない」と訴えられることもあります。
加齢とともにみられやすくなるほか、睡眠時無呼吸症候群、頻尿、痛み、痒み、ストレス、うつ状態などが背景に隠れていることもあります。
またアルコールの摂取も中途覚醒の原因となります。
早朝覚醒
早朝覚醒は、起きたい時刻よりもかなり早く目が覚め、その後眠れなくなってしまう状態です。
加齢による睡眠の変化でもみられますが、うつ病などで特徴的にあらわれることもあります。
朝早く目覚めたあとに気分の落ち込みや意欲低下が強い場合には、心の不調が関係していないか確認が必要です。
熟眠困難
熟眠困難は、ある程度の時間眠っていても「ぐっすり眠れた感じがしない」「疲れが取れない」と感じる状態です。
睡眠の質が低下している場合にみられ、痛みや痒み、咳、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、周期性四肢運動障害、飲酒習慣、ストレスなどが関係することがあります。
不眠が長引くと、「今日も眠れなかったらどうしよう」という不安そのものが不眠を強める悪循環に陥ることがあります。
最初は一時的な不眠でも、無理を重ねたり、誤った対処を続けたりすることで慢性化することがあるため、原因を丁寧に見極めることが大切です。
不眠症への対処法
不眠症では、まず生活習慣や睡眠環境を整えることが大切です。
例としては以下のようなものがあります。
- 起床時刻をできるだけ一定にする
- 朝はカーテンを開けて日光を浴びる
- 日中に適度な運動を取り入れる
- 夕方以降のカフェインの取りすぎを避ける
- 寝酒に頼らない
- 就寝前のスマートフォン、パソコン、強い光を控える
- 寝床は「眠る場所」として使い、長時間だらだら過ごさない
- 眠れないまま長く横になり続けない(一度起きて、ほかのことをしてみる)
- 昼寝をする場合は短時間にとどめる
- 寝室の温度、湿度、音、明るさを見直す
など
また、「8時間眠らないといけない」「昨日眠れなかったから今夜は絶対に眠らなければ」といった考えが、かえって不安を強めることがあります。
睡眠には個人差があり、年齢によっても変化します。
眠れないことだけに意識を向けすぎず、まずは生活全体を整え、眠気に合わせて自然に眠れる流れを作ることが大切です。
対処しても改善しない場合は、無理に我慢せずご相談ください。
不眠症の治療法
治療にあたっては、まず、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、概日リズム障害、うつ病、不安障害、甲状腺機能異常など、ほかの疾患が不眠の原因となっていないかを確認し、もしあれば、場合によっては他科とも連携し、その疾患の治療を優先します。
また薬剤性のものであれば、該当する薬の中止や変更を考えます。
不眠症と診断されれば、当クリニックでは不眠のタイプや背景にある原因を丁寧に見極めたうえで、患者さまそれぞれに合わせた治療を行っていきます。
不眠症の治療には、大きく分けて非薬物治療と薬物治療があります。
現在の睡眠医療では、まず睡眠の状態や背景にある原因を丁寧に見極め、そのうえで生活習慣の見直しや認知行動療法を基本にしながら、必要に応じてお薬を使っていきます。
とくに慢性的な不眠では、薬だけに頼るのではなく、不眠を長引かせる生活パターンや考え方にも目を向けることが大切とされています。
非薬物療法
非薬物治療の中心となるのが、不眠症に対する認知行動療法、いわゆるCBT-Iと呼ばれるものです。
CBT-I(Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia)は、不眠症の第一選択として、強く推奨される非薬物療法で、2026年6月に保険適用となることが決まっています。
この治療法は「眠れないことへの不安」や「早く寝ようとしすぎる習慣」など、不眠を悪化させる要因を整理し、眠りやすい状態を作っていくというものです。
具体的には、上記の「不眠症への対処法」の内容の患者さまに合わせた実践法を考えていくほか、睡眠日誌をつけて睡眠パターンを把握したり、寝床にいる時間を減らしたり、起床時刻を整えたり、眠りに対する考え方のくせ(眠れないと翌日がダメになってしまう、など)を見直したりしていきます。
薬物療法
薬物治療は、不眠が強く日中の生活に支障が大きい場合や、つらさを早く和らげたい場合、非薬物治療だけでは十分な改善が得られない場合などに行われます。
使われるお薬には、脳を覚醒させる働きを抑えて自然な眠りを促すオレキシン受容体拮抗薬、眠気に関わるGABAの働きを強めるGABA受容体作動薬、体内時計に働きかけるメラトニン受容体作動薬があります。
GABA受容体作動薬の中でも、従来から使われてきたものがベンゾジアゼピン系薬で、寝つきをよくする効果が期待できる一方、ふらつきや持ち越し、依存に注意が必要です。
薬物治療では、患者さまの年齢、不眠のタイプ、生活スタイル、ほかの病気の有無をふまえて、できるだけ適した薬を選びます。
また、漫然と長く続けるのではなく、単剤を基本にし、効果と副作用を確認しながら必要最小限で使うことが大切です。
症状が落ち着いてきたら減量や中止も検討しますが、自己判断で増減しないよう注意します。
当院でも、非薬物治療を大切にしながら、必要なときに無理のない薬物治療を組み合わせて不眠症の改善を目指します。
睡眠障害全般とは
当クリニックでは、不眠症のほか、日中の強い眠気、生活リズムの乱れ、寝ている間の異常行動、脚のむずむず感など、さまざまな睡眠障害に対応しています。
睡眠の問題は、「眠れない」だけではありません。
眠りすぎる、夜の睡眠が妨げられる、体内時計がずれる、睡眠中に思わぬ行動が出るなど、多様なかたちであらわれます。
睡眠に関する気になる症状がありましたら、どのようなことでもご相談ください。
過眠症
過眠症とは、夜にある程度眠っているはずなのに、日中に強い眠気が続き、会話中や仕事中、授業中など本来眠るはずのない場面でも眠ってしまうような状態を指します。
単なる寝不足ではなく、ナルコレプシーや特発性過眠症などの病気が背景にあることがあります。
日中の眠気は集中力低下や事故のリスクにもつながるため、原因を見極めることが大切です。
診断では、まず問診や睡眠日誌をもとに状態を確認します。必要に応じて、睡眠ポリグラフ検査や反復睡眠潜時検査(MSLT)を他科に依頼し、診断を進めていくことがあります。
概日リズム障害
概日リズム障害は、体内時計のリズムと社会生活の時間がうまく合わず、望ましい時間に眠れない、起きられない状態です。
夜型生活が進んで朝起きられない睡眠相後退型や、交代勤務や時差の影響で睡眠リズムが乱れるタイプなどがあります。
治療では、光の使い方、起床時刻の調整、睡眠日誌による記録、必要に応じてメラトニン関連薬などを活用します。
詳しくはこちらをご参照ください。
睡眠時随伴症
睡眠時随伴症とは、睡眠中に起こる異常行動の総称です。
たとえば、寝ぼけて歩き回る、寝言が多い、悪夢で叫ぶ、夢の内容に合わせて手足を動かすといった症状があります。
とくにレム睡眠行動障害では、夢の内容を実際に行動に移してしまい、ご本人や同居のご家族がけがをすることもあります。
原因や危険性は種類によって異なるため、症状がある場合は正確な評価が重要です。
睡眠関連運動障害(むずむず脚症候群)
むずむず脚症候群は、夕方から夜にかけて、脚を中心に「むずむずする」「虫がはうような感じがする」「じっとしていられない」といった不快感が出る病気です。
横になると症状が強くなり、脚を動かすと少し楽になるのが特徴で、そのため寝つけず不眠の原因になることがあります。
鉄欠乏などが関係することもあり、診断では症状の特徴や血液検査などを参考にします。
治療では生活指導、鉄補充、必要に応じて薬物療法を行います。
生活リズム障害
(概日リズム障害)とは
生活リズム障害、正確には概日リズム睡眠・覚醒障害とは、体内時計が作る約24時間のリズムと、学校や仕事など社会生活上求められる睡眠・覚醒の時間帯が合わなくなることです。
望ましい時間に眠れない、起きられない、日中に眠いといった問題が生じ、生活にも支障をきたしている状態です。
体内時計は光、とくに朝の光によって調整されますが、その働きがうまくいかないと睡眠のタイミングが大きくずれてしまいます。
背景には、生まれつき体内時計が後ろにずれやすい体質、夜間の強い光刺激、夜更かしの習慣、交代勤務、時差、視覚障害など、さまざまな要因があります。
たとえば、夜遅くまでスマートフォンやパソコンの光を浴びる生活は、体内時計を後ろにずらしやすく、朝起きづらさにつながります。
単なる怠けや意思の弱さと誤解されやすいのですが、実際には体内時計の仕組みが関わる睡眠障害です。
生活リズム障害のタイプ
概日リズム障害にはいくつかのタイプがあります。
代表的なのは
です。
睡眠・覚醒相後退障害
眠くなる時刻が深夜から明け方へと遅れ、朝起きられないタイプです。
思春期から若年成人に多く、学校や仕事に遅刻しやすくなります。
睡眠・覚醒相前進障害
夕方から夜早くに眠くなり、早朝に目が覚めてしまうタイプです。
高齢者にみられやすく、本人は十分寝ているつもりでも、生活時間と合わず困ることがあります。
不規則睡眠・覚醒リズム障害
睡眠時間が1日の中に細切れに分散し、まとまった夜間睡眠がとれないタイプです。
認知症や神経疾患のある方でみられることがあります。
非24時間睡眠・覚醒障害
体内時計が24時間に同調せず、寝る時刻と起きる時刻が日ごとにずれていくタイプです。
視覚障害のある方で起こりやすいことが知られています。
交代勤務障害
夜勤やシフト勤務などで睡眠時間帯が頻繁に変わることにより、不眠や日中の眠気、体調不良が起こる状態です。
時差障害は、時差の大きい地域へ移動したあとに、体内時計と現地時間のずれで不眠や眠気が出る状態です。
また、単なる睡眠不足、不眠症、過眠症、うつ病、睡眠時無呼吸症候群などとの区別も必要です。
症状によっては、ほかの睡眠障害が隠れていないかも確認しながら、総合的に診断していきます。
生活リズム障害の治療
非薬物治療
生活リズム障害の治療で基本となるのは、体内時計を整えるための非薬物治療です。
とくに重要なのは、起床時刻を一定にすること、朝にしっかり光を浴びること、夜の強い光を避けることです。
睡眠・覚醒相後退障害では、朝の高照度光療法が有効なことがあり、逆に夜遅い時間の明るい光は症状を悪化させることがあります。
高照度光療法では、通常2,500~10,000ルクスの強い光を、一定時間(通常30分~1時間程度)浴びるようにします。
また、就寝・起床時刻を急に変えるのではなく、少しずつ前倒しまたは後ろ倒しに調整することもあります。
交代勤務の方では、勤務表に合わせた睡眠スケジュールの工夫、仮眠のとり方、光の浴び方の調整が重要です。
こうした治療は自己流ではうまくいかないことも多いため、睡眠の状態を記録しながら、医師の指導のもとに進めることが大切です。
薬物治療
薬物治療では、体内時計に関わるホルモンのメラトニンや、メラトニン受容体作動薬が用いられることがあります。
服用する時刻がとても重要で、ただ眠る前に飲めばよいというものではなく、体内時計をどちらに動かしたいのかに応じて使い方を調整する必要があります。
一方、一般的な睡眠薬は「その夜を眠りやすくする」効果はあっても、体内時計そのもののずれを治すわけではないため、概日リズム障害では使い方を慎重に考える必要があります。
当クリニックでは、生活リズム、日中の活動、学校やお仕事の状況もふまえながら、非薬物治療を基本に、必要な場合に薬物療法を組み合わせて治療を進めていきます。