強迫性障害とは

強迫性障害は、頭では「そこまで気にしなくてもよい」とわかっていても、不安や違和感を打ち消せない考えが繰り返し浮かび、その不安を和らげるために同じ確認や行動を何度もしてしまうものです。
強迫性障害は決して珍しい病気ではなく、日本での生涯有病率は1〜2%程度とされています。

代表的な症状は、繰り返し浮かぶ考えやイメージである「強迫観念」と、それによって生じた不安を減らすための反復行動である「強迫行為」です。
単なる性格の問題や「こだわりが強い」というだけではなく、症状のために時間が取られ、生活に支障が出ている状態を指します。

たとえば、「手が汚れているのではないか」「鍵を閉め忘れたのではないか」「自分のせいで誰かに危害が及ぶのではないか」といった考えが頭から離れず、何度手を洗っても、何度確認しても安心できないことがあります。
強迫性障害では、ご本人も症状の不合理さに気づいていることが多い一方で、不安が強すぎてやめられないのが特徴です。

強迫性障害の原因

強迫性障害の原因はひとつではなく、発症には、もともとのなりやすさに加えて、ストレス、生活環境、生育歴、感染症など多様な要因が関係するとされています。
また、脳の情報処理や不安の制御に関わる働きの偏りが関係している可能性も指摘されていますが、はっきりとした発症のメカニズムはわかっていません。

一方、ストレスが強い時期に悪化しやすいことが知られており、受験、就職、異動、結婚、出産、育児、介護などの環境変化をきっかけに症状が目立つようになることもあります。
ご本人の努力不足や意志の弱さが原因ではなく、不安と行動の悪循環が病気として固定化している状態と考えることが大切です。

強迫性障害では、
以下のような症状がみられることがあります

強迫観念

  • 手や物がひどく汚れている気がして、感染や汚染が頭から離れない
  • 鍵やガス、電気を消し忘れたのではないかと何度も不安になる
  • 自分の不注意で火事や事故を起こしたのではないかと心配になる
  • 誰かを傷つけてしまうのではないか、縁起の悪いことが起こるのではないかと考えてしまう
  • ある数字や順番、左右対称などに強くこだわってしまう
  • 自分では望んでいない嫌なイメージや衝動が突然浮かんでしまう
  • ばい菌、排泄物、化学物質などへの過度な嫌悪感が続く
  • 「ちゃんとできていない」「ぴったりでない」と強い違和感が残る

など

強迫行為

  • 手洗いや消毒を何度も繰り返す
  • 戸締まり、火の元、持ち物などを何度も確認する
  • 汚れたと思う物を避けたり、特定の方法でしか触れなくなったりする
  • 数を数える、心の中で特定の言葉を唱える
  • きっちり同じ順番、同じ回数で物事をしないと落ち着かない
  • 身近な人に「大丈夫だよね」と何度も確認してしまう
  • ノートの文字や書類を納得いくまで何度も書き直す
  • 不安を避けるために外出や人との関わりを避けるようになる

など

強迫観念には、汚染への恐怖、加害への不安、確認へのとらわれ、数字や順序・対称性へのこだわり、縁起や宗教的なとらわれ、望まない攻撃的・性的イメージなど、さまざまな種類があります。

強迫行為にも、手洗い、確認、整頓、反復、数唱、祈り、安心確認、回避などのかたちがあります。
行為として目に見えるものだけでなく、頭の中で打ち消そうとする「心の中の儀式」が続いていることもあります。

こうした症状は長く続くと、仕事や家事、通学、人間関係に影響が出たり、ご家族を巻き込んでしまったりすることもあります。

強迫性障害の検査・診断

強迫性障害の診断では、強迫観念、強迫行為、またはその両方があり、苦痛が強いこと、時間がかかること、日常生活への支障があることが診断の重要なポイントとされているため、問診などで丁寧に確認していきます。
症状の内容や始まった時期、悪化のきっかけ、回避していること、ご家族への影響などを詳しくうかがいます。

また、似た症状を示すほかの病気との見分けも重要です。
たとえば、不安障害、うつ病、統合失調症、発達特性などでは、似たこだわりや反復行動がみられることがあります。
不安障害などとの違いとして、強迫性障害では多くの場合「自分でもやりすぎだとわかっている」ことです。
必要に応じて、身体疾患や薬剤の影響がないかも確認しながら総合的に診断していきます。

強迫性障害の治療

当クリニックでは、強迫性障害に対して、主に認知行動療法と薬物療法を行います。
強迫性障害は、適切な治療によって改善が期待できる病気です。
症状の種類や重さ、ご本人の生活状況に合わせて、無理のない治療方針を一緒に考えていきます。

認知行動療法では、とくに曝露反応妨害法(ERP)が中心になります。
これは、不安を感じる場面や対象に少しずつ向き合いながら、いつもの強迫行為をできる範囲で行わずに過ごす練習を重ねる治療です。
たとえば「少し汚いかもしれない」と感じる物に触れたあと、すぐに手洗いをせずに不安が自然に下がるのを待つ、といった方法です。

ただし、ERPを行う際には、いきなり強い不安に挑戦するのではなく、ご本人が取り組める段階から始めることが大切です。
無理のある進め方はかえってつらさを強めたり、中断につながったりするため、症状の背景を丁寧に共有しながら、段階表を作って少しずつ進めていきます。
クリアできたという成功体験を積みながら進めていくことが大切です。
また、ご家族が安心のための確認に巻き込まれている場合には、その関わり方も一緒に調整していくことがあります。

薬物療法では、主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬が使われます。
必要に応じてほかのお薬を併用することもありますが、薬物療法では、自己判断で急に中止すると症状の再燃につながることがあるため、医師と相談しながら調整していくことが重要です。

強迫性障害では、「やめたいのにやめられない」こと自体が大きな苦しみになります。
しかし、治療を始めることで、少しずつ不安に振り回されない時間を取り戻していくことができます。
一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。